元ロシア駐在員による楽しく身につくロシア語オンライン講座

ロシア式サウナ「バーニャ」の私の初体験を語ります

2020/05/19
 
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根畑陽一(Yoichi Nebata)
1987年石川県生まれ、金沢市在住。神戸大学経営学部卒。 新卒で三井物産株式会社に入社し、約9年半勤務。会社の語学研修制度で、ロシアのオムスク(シベリア)でロシア語を習得。ロシア・ウクライナに合計4年駐在し、主に日系自動車のビジネスに従事。 退職後、民間レベルでの日露交流をもっと深めたいとの思いから、ネバタロシア語オンラインスクールを立ち上げる。 TOEIC920点、ロシア語検定テ・エル・カイ第3レベル(C1レベル)。 趣味は旅行、読書、ストリートダンス。学生時代、ロサンゼルスにて1年弱の語学兼ダンス留学を経験。自身のYouTubeチャンネルでロシア動画を配信中。

みなさんロシア式のサウナ、バーニャはご存知でしょうか?一度体験したことがある方はきっと忘れられない思い出になっているはずです。
 
この記事では2014年(今から6年前)に、生まれて初めてロシアのバーニャ(баня)に挑戦した時の体験談を共有します。


ロシア人の多くは郊外にダーチャ(дача)という別荘を持っています。夏は家庭菜園を行って、夏休みをダーチャでゆっくりと過ごすことが多いです。これは食料がそれほど豊富ではなかったソ連時代に、自給自足を促すために政府から各家庭に割り与えられたと言われています。

バーニャもそのようなダーチャのある郊外に、一戸建ての小屋として立っている場合が多いです。または都市圏には公衆バーニャというものも存在します。モスクワにはサンドゥニ(Сандуны)を代表したロシア帝政時代(100年以上前)からある伝統公衆サウナもあります。

私がロシア人の友人に連れられて初めて訪れたバーニャは、西シベリアのオムスク市から約 3 時間電車で郊外に進んだところにある典型的なシベリアの田舎町にありました。水平線に果てしない雪原が広がり、集落には農家や畜産家がのどかに暮らしています。友人の祖父母は退職後、この田舎に引っ越し、家庭菜園で半自給自足しながら年金生活を送っています。

本当のバーニャは、準備からがバーニャです。

たとえるなら、バーベキューであれば、肉を焼いて食べるだけではなく、食材調達、場所取り、火起こし、この全てのプロセスをみんなで手分けしてワイワイ進めるのも、バーベキューの醍醐味であるということです。

大前提として、この田舎のバーニャは雪原にポツンと小屋が建っているだけです。水道が通っていません。バーニャは暖炉に水をかけることで暑い水蒸気を発生させて、サウナ入浴を楽しむものです。その水がこのバーニャ小屋には無いのです。

画質が悪くて申し訳ないですが、これが私がトライしたシベリアのバーニャ小屋です。

私の初体験バーニャ小屋

近所の井戸から凍っていない井戸水を大きなバケツで組み上げます。この時、外はマイナス20度くらいでしたが、井戸水はかろうじて凍っていません。

今度は井戸水が入ったバケツを雪上ソリ(サンキ/санки)で小屋まで運びます。雪道をソリを引いて歩くだけで、「俺はシベリアにいる!」っていう実感が込み上げて来ます。

雪上ソリ イメージ


ようやく運び込んだバケツの水を、バーニャの中のタンクに流し込みます。タンクがいっぱいになるまで、井戸とバーニャを何回か往復します。どれだけ外が寒くても、あったかい格好で、体を動かしていればほどよく汗をかいてきます。ようやく、タンクの水が十分に溜まってきました。


水以外にバーニャに必要なものは何でしょうか?そうです、薪です。

今度は、祖父母の家のガレージに保管された燃料用の薪を準備します。ロシアのシベリアには白樺(ベリョーザ/белёза)がいっぱい生えています。日本でも長野や北海道などの少し寒い地域に良く生えていますよね。この白樺がとっても美しく、良く燃えて、良い匂いを放つんです。シベリアで暮らす人々にとって白樺は欠かせないものです。

白樺の木々

白樺の薪を斧で割ります。雪原の中で、両手で斧を振り下ろすというのも都会ではなかなか出来ない体験でしょう。最初は難しいですが、やっているうちにだんだんとコツが分かり、慣れてきます。

適当なサイズに割った薪を小屋に運び入れます。暖炉に火を付けて、バーニャが温まるまで小一時間待機します。ロシア人の友人は、「バーニャを準備して、焚き上がるのをワクワクしながら待つのもバーニャの楽しみの一つだ」と嬉しそうに言っていました。

バーニャの構造

バーニャ小屋は外から入ると、最初に待機用の部屋があります。ここはちょうどいい温室(+25度くらい)になっており、着替えたり、サウナの合間に休憩、団らんする空間になっています。待機用の部屋からさらに内部のドアを開けると、サウナ入浴用の部屋に繋がっています。

下の写真が入浴室の内部です。左に見えるのが水のタンク。右側には座ったり、横になれる木の台があります。枝葉(ヴェーニク)、タンクの水で体を洗うためのグッズが揃っています。

入浴室内部

バーニャが十分に温まった後、入浴室のタンクからひしゃくで暖炉に水を掛けます。ジュワーーーっという良い音を立てて、水蒸気を発生させます。この音がたまりません。

水をかければかけるほど室内の湿度がどんどん高まっています。

体感温度とは、室温と湿度の足し算と言われています。温度はそれほど高くなくても、湿度が高いので、肌を熱気がムワッと包みます。

日本のサウナは乾式サウナという分類で、室温80-100度と高いですが、湿度は10-15度と低めです。一方で、ロシアのバーニャ(フィンランドサウナもこれに近い)は蒸気式サウナで、室温70-80度と低めですが、湿度は20-30度と高めになっています。私は日本のサウナもよく入りますが、乾いた空気より、ロシアバーニャの湿った空気の方が肌に気持ちいいです。

ロシアバーニャにおけるもう1つの忘れがたい体験が木の枝葉(ヴェーニク・веник)によるマッサージです。「ウィスキング」とも言われています。

右の枝葉がヴェーニク。特に採れたては良い香りがします。

ここでは白樺の枝葉を使いました。場合によっては、樫の枝葉(ドゥボーヴィ・ヴェーニク/дубовый веник)を使うこともあります。

まずはこの枝葉を水にしっかりと浸して、水分を含ませます。入浴室内に充満する水蒸気を枝葉にたっぷりと含ませた上で、全身をバシバシと軽く叩いてマッサージします。葉に付いた水滴とまとわりつく蒸気が、木の葉の香りと相まって、とても良い香りがします。しっかりと整ったバーニャで、ヴェーニクの匂いを嗅ぐだけで、森と一体になった感覚になります。

体を叩いていると大変心地良い刺激です。ヴェーニクによるマッサージは、血行が良くなって、健康に良いと言われています。

ロシア語で蒸気は「пар/パル」で、バーニャに入ることを「париться/パーリッツァ」と言います。文字通り、この蒸気を浴びるという表現がしっくりきます。
ちなみに、「Не паришься/ニーパリシスィア」は「焦るなよ」という意味になります。焦りすぎて、汗だくになるなよ、みたいなニュアンスです。

また、バーニャから上がった人にかけるロシア語のフレーズがあります。
「С лёгким паром!/ス リョーフキム パラム!」とは、「爽やかな蒸気が得られておめでとう!」という意味です。こんなフレーズ、他の国には無いと思います。
これを言われたら、「Спасибо!/スパシーバ」(ありがとう)で返します。

全身がのぼせあがり、暑さで耐えられなくなったら、入浴室を出ます。水風呂があれば水風呂に入り、無ければ屋外に出て、そのまま雪の中に飛び込むなどして体を冷やします。水風呂が無かったので、私は雪に飛び込みました。

外はマイナス20 度でしたが、全身がほてっているので、心地よい涼しさと感じられます。普段なら極寒で陰鬱なシベリアの大地に見えなくもない景色が、この時は心なしか雪に包まれたシベリアの田舎町がいつもよりとても美しく見えました。

外に出るとこんな景色でした

ただし、外での長居はご法度です。この時、ロシア人の友人5人とバーニャに入っていたのですが、 5人全員が「風邪引くからすぐに中に入れ」と繰り返し大声を上げていたのが印象に残っています。

ロシア(特にシベリア)ではよく、冬に帽子を被らずに外を歩くと、道端で見ず知らずに年配の女性に「帽子をかぶりなさい」と注意されることがあります。このロシア人の良い意味でのおせっかいさ、世話焼きな面が、20 代の若者にもしっかり浸透しているのを感じました。

そして、待機用の部屋でお茶やビールを飲みながら談笑します。バーニャ体験を共有した仲間とは話が弾み、距離が縮まります。
こんなリラックスした場所では、田舎の若者は常にмат(放送禁止ワード/スラング)を使って話しています。どんな文章を話していても言葉の合間や語尾に放送禁止ワードが付くのです。毒づいているというよりは、語勢を強めてより面白く話すという感じです。それにしても、短時間でここまで多くのпар(蒸気)とмат(スラング)を浴びたのは初めてでした。

ちなみに、日本では「ロシア人はサウナでウォッカを飲む」と間違った情報が流れることがあり、私はその度にもどかしい気持ちになります。アルコールとサウナは相性が悪いです。中には飲む人もいますが、本当のバーニャ好きは入浴中にウォッカは飲みません。もちろん、バーニャから上がった後は、ウォッカを飲んでも良いです。

あくまで入浴の合間にはお茶を飲みながら、ハチミツを舐めたり、アルコールといってもビールを飲むくらいです。


そんな感じで待機室でしばらく休んだ後に、また入浴室に入るというのを数回繰り返します。回数を重ねるにつれて、暖炉に水を掛けながら、入浴室の体感気温を徐々に上げていきます。バーニャの暑さと、外の寒さのコントラストで、新陳代謝が促されます。入浴後には全身がリラックスして、体が軽くなったような感覚に包まれます。いわゆる、「ととのった」という状態です。

この一連の流れを通じて、リラックスした状態でバーニャ体験を共有して、心を開いて話すというのがロシア人において大事な時間であることを肌で理解しました。

ロシアの政治家が、別荘のダーチャやバーニャで重要な話し合いをするというのもよくある話です。プーチン大統領もダーチャとバーニャを持っています。

もし、ロシア人にバーニャに招かれる機会があれば、仲良くなって絆を深めるチャンスだと思って積極的に参加しましょう。



ロシア人は笑わない?

ロシア人は他の外国の人から怖いというイメージを持たれがちです。

その大きな理由はロシア人は初対面であまり笑顔を見せないことにあります。最近でこそ、欧米式の接客マナーが身についてきたので、笑顔のロシア人が増えていきましたが、それでも欧米に比べると仏頂面が多いと感じることが多いと思います。

これには理由があります。ロシア語のことわざに、”Смех без причины – признак дурачины/スメフ ベズ プリチーヌィ プリーズナク ドゥラチーヌィ.”「理由の無い笑いは、バカの証拠である」というフレーズがあります。初対面のかしこまった場では、不用意に笑わないというのが相手に対するマナーでもあるのです。

一方で、ロシア人は一度友達(друг/ドゥルーク)として仲良くなると、とことんフレンドリーな人たちです。絶え間なくジョークを飛ばしすぎて、何が冗談で、何が本当か分からなくなるくらいです。また、友達には情に厚く信頼できる仲間になるというメンタリティを持っています。

ビジネスの世界でも、オフィスでスーツを着てかしこまって話すよりも、バー、レストラン、ダーチャ、バーニャ等のリラックスした状態を共にした方が、本音で語り、有意義な話し合いが出来るというのがロシア人の面白い特徴です。ある意味、公私混同が当たり前の世界です。公私混同というと悪いイメージがありますが、どこぞの馬の骨とも知れない人よりは、信頼できる身内の人と仕事した方が安心ということでもあります。

私は日系自動車をロシア全土のディーラー経由で販売するという仕事で携わっていましたが、地方のディーラーに行くとよく飲み会やバーニャ等に誘われます。そこで一旦仲良くなっておけば、その後仕事もしやすくなります。

仕事とプライベートをきっちりと分ける欧米人とは異なる感覚です。「飲みニケーション」を大事にする意味では、日本人に近い感覚を持っているように思います。

日本人の皆さんにはぜひロシアのバーニャを体験していただきたいと思っています。僕は将来的に日本にロシアのバーニャを作りたいという夢を持っています。
ただし、それにはまだ時間がかかりそうなので、皆さんにオススメできるのは東京から2時間で行ける極東ロシアのウラジオストクです。ここにも良いバーニャがいくつかあります。

バーニャを体験すれば、ロシアがより身近で忘れられない国の1つに入ると思います。



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根畑陽一(Yoichi Nebata)
1987年石川県生まれ、金沢市在住。神戸大学経営学部卒。 新卒で三井物産株式会社に入社し、約9年半勤務。会社の語学研修制度で、ロシアのオムスク(シベリア)でロシア語を習得。ロシア・ウクライナに合計4年駐在し、主に日系自動車のビジネスに従事。 退職後、民間レベルでの日露交流をもっと深めたいとの思いから、ネバタロシア語オンラインスクールを立ち上げる。 TOEIC920点、ロシア語検定テ・エル・カイ第3レベル(C1レベル)。 趣味は旅行、読書、ストリートダンス。学生時代、ロサンゼルスにて1年弱の語学兼ダンス留学を経験。自身のYouTubeチャンネルでロシア動画を配信中。

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